ペアフラーレンイオンプラズマ中の静電波動特性

 

通常のプラズマは電子とイオンから成り, 質量比が非常に大きく(m+/me = 104105,

これにより粒子の速度に大きな差がある.これに起因して, 自己無撞着電磁場を形成するプラズマ中では多様な物理現象が発現する. 一方, 等質量比の正負電荷粒子(m+/m- = 1) から成るプラズマをペアプラズマという(電子−陽電子プラズマ, 宇宙空間中ダストプラズマ など). このプラズマでは,集団的時空間スケールが対称的で, 通常のプラズマで発現し得ない独特の現象が期待できる.

ペアプラズマの代表は, 電子−陽電子プラズマであるが, これは陽電子を定常的に且つ十分に多く生成し難い( < 107 cm-3), ポジトロニウムを形成し易く, プラズマのライフタイムが短い,またプラズマ計測が難しいなどの問題点がある. そこで我々は, 正負イオンになり易く, その扱いに慣れているフラーレンC60をペアイオンプラズマのイオン源として採用した.

これまで, 我々のグループではペアフラーレンイオンプラズマの定常的生成に成功した. その測定により, プローブの飽和電流値が正イオン, 負イオンに関して等しいという特徴を示し, また, 空間電位がほぼ0 V であるということからペアイオンプラズマ中ではシースを含む直流的な電位が存在しないということを示した. さらに基礎物性解明の一環として,ペアプラズマにおける静電波動の特異性を示した. すなわち, よく知られているイオン音波(熱モード)とイオンプラズマ波の中間周波数帯において新たなモードが発見された. このモードは図2に示すように後進波的性質があり, 流体論からは導かれない. また, イオン音波領域のイオンサイクロトロン周波数付近において分散関係に共鳴が見られることが分かり, この部分においても後進波的性質を持つ. この波動の理論的説明が, 世界的理論家によって試みられている. 我々は実験的にこの波動の性質の詳細を追求していく予定である.

      

1: 実験装置図                      2: 分散関係

 


桑原 洋平